運命じゃない人

 平凡なサラリーマン宮田は最近彼女に振られたばかりである。彼女との結婚を夢見て買ったマンションに一人で暮らしている。一方、彼の親友神田は私立探偵。いろいろと危険と隣り合わせで商売をしている。
 ある日帰宅するや宮田は神田に電話で近くのレストランに呼び出される。そこで婚約を破棄し部屋を飛び出し、行き先のない女性、真紀と偶然出会う。宮田はその夜、彼女をマンションに泊めてやることにしたは良かったが、そのマンションに別れた彼女のあゆみが突然現れ、「荷物を取りに来た」と上がりこんで来た。真紀はいたたまれなくなったのか、マンションを飛び出し、タクシーに乗る。宮田はそれを追いかけ、彼女から携帯電話の番号を教えてもらった。
 そこで1つのストーリーが終わる。その時間、約30分。この最初のストーリーの主人公は宮田。引き続き、神田を主人公としたストーリーが始まった。「オムニバスかな?」と思ったら、そうではなかった。先ほどの宮田のストーリーと同時刻の話を今度は神田を主人公としたストーリーでなぞっている。実にこれが上手い。神田が宮田を電話で呼び出した理由がここで初めて分かるし、その後急にレストランから神田が姿を消した理由も分かり、話に面白みが増す。
 そして最終章はヤクザの組長、浅井のストーリーで構成されている。あゆみは浅井の元から金を持って逃げていた。逃亡の手助けを請け負った神田はあゆみとともに浅井に捕えられてしまう。しかし、あゆみが奪って逃げた金が出てこない。そして結末は???。
 1本目のストーリーは別にそれほど面白い話ではないが、同時に起きていた神田や浅井、それにあゆみの動きをそれに加えていくと、意外なストーリーがいくつか浮かんでくる。真紀の存在も侮れない。実に見事な手法だ。そしてこの映画タイトルが意味するものは?。DVDで確認されることを薦めたい。
<初出:秀コラム 第1682話>

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